コミュニケーションにおける社会哲学と認知語用論の接点
和泉敏之
I 発表の動機
ルーマンのコミュニケーション論と関連性理論の類似性を感じた。
〈出発点〉拙著に対して、自身の意図しない感想(良くも悪くも)が起きた。
↓手紙などのコミュニケーションに対して、我々は何を語ることができるのか?
↓ 社会システムと心理システムをの関係性をさらに深掘りしてみては?
↓ 「意味」の概念についてもっと深く考察したい!
↓ChatGPTとの対話
私:
ありがとうございました。
ここからは私の仮説ですが、意味が選択を要請するとき、その選択は効率性の原則からなされると考えています。なぜなら、チューリングらも言うように、生物の基本生成には効率性が深く結びついているからです。これについてはどうお考えですか?
ChatGPT:
興味深い仮説ですね。意味の選択が効率性の原則に基づいて行われるという考え方には一理あります。以下にその理由を説明します。
1. **生物学的基盤**:チューリングの仮説に基づけば、生物の基本的な生成や進化には効率性が重要な役割を果たします。リソースの最適な利用、エネルギーの節約などが生存と繁殖に直結するため、効率的な選択が進化の過程で選ばれる傾向があります。この考え方を社会システムに適用すれば、社会的な意味の選択も効率性を考慮して行われると考えることができます。
2. **システム理論の視点**:ルーマンの社会システム理論でも、システムが環境との相互作用を通じて自己を維持するためには、複雑性を縮減し、効率的に情報を処理する必要があります。意味の選択は、このプロセスの一環として、システムの運営効率を高める方向で行われると考えることができます。
3. **経済的合理性**:社会システムの一部である経済システムでは、効率性は非常に重要な原則です。資源の配分や意思決定のプロセスでは、効率性が重要な基準となります。社会全体でも、限られたリソースを最適に利用するために、意味の選択が効率性に基づく可能性があります。
4. **コミュニケーションの効率性**:意味の選択はコミュニケーションの効率性にも関わります。情報を迅速かつ効果的に伝達し、理解されることが社会システムの機能にとって重要です。そのため、意味の選択が効率的に行われることで、コミュニケーションの質が向上し、社会システム全体の効率性が高まると考えられます。
総合すると、意味の選択が効率性の原則からなされるという仮説は、ルーマンの社会システム理論や生物学的進化の視点からも十分に支持されるものであると言えます。この視点からさらに深めていくことで、社会システムの運営やコミュニケーションの動態について新たな洞察が得られるかもしれません。
Ⅱ 発表の概要
1. はじめに
1.1. コミュニケーション
コミュニケーションについて様々な視点による考察を行う。1 つの理論のみに依拠するよりも、親和性の高い領域を結合させていることに本小論の意義がある。今回、社会哲学のルーマンの理論と人類学の背景を持つ認知語用論の理論を用いる。
コミュニケーションとは複合性の縮減のための選択である。その際、選択された可能性は意味として現実性と結合される。
1.2. 研究課題
なぜ選択される可能性とそうでないものがあるのか。
1.3. 方法
関連性理論によってルーマンのコミュニケーション理論を再読する。そのためには、ミクロなコミュニケーション概念についての再考が必要である。これは人間の認知メカニズムについての言及を手がかりとすることで解決を試みる。
1.4. 結果
関連性のある可能性が意味として現実性と統合される。
2. 関連性理論と社会システム理論
2.1. 関連性理論
・認知環境
「認知環境とは、個人が精神的に表象したり、真実と受け入れたりすることのできる想定の集合体である
(Sperber. D. & Wilson. D. 1995, p. 46)。」
・関連性
「(1)コンテクストにおける認知への効果が大きいとき、その程度において、想定はそのコンテクストにおいて関連性がある。
(2)コンテクストにおける処理のために要求される労力が小さいとき、その程度において、想定はそのコンテクストにおいて関連性がある。(前掲書 p. 125)」
・関連性の原理 「コンテクストにおいて、認知効果を引き出す場合あるいはその場合のみにおいて、その想定は関連性があるという(前掲書 p. 122)。」
「人間の認知は関連性の最大化に合わせて動く傾向がある(前掲書 p. 260)。」
2.2. 関連性理論と社会システム理論の接点
コミュニケーションにおいて、関連性の低い可能性は潜在性として存在し、消滅しているわけではない。関連性の高いものが顕在化され、コミュニケーションは接続されていく。このとき、関連性の高い可能性が意味として、現実性と統合される。これはルーマンのいう「期待」概念との整合性が見られる。
つまり、コミュニケーション(相互作用システム)は複合性の増大に抗して進んでいくことになる。複合性の増大と縮減の間にさらされたコミュニケーションは改めて、極めて不安定なものと言える。
以上を踏まえて、コミュニケーション・システムには関連性の原理が働いているとは考えられないだろうか。根拠として、人間の神経ニューロンも関係の強いもの同士がシナプスを形成し、様々な可能性が除去されることが挙げられる。心理システムは環境との相互浸透により、コミュニケーション・システム形成の手立てとなる。ルーマンは心理システムに対し神経は「環境」と言っているが、システムと環境が緩やかな影響を及ぼし合うことを考えれば、この考えはある程度妥当と言えると思われる。
3. おわりに
偏重的な意味理解を防ぐ必要がある。また、文化への鋭敏な感性が重要視される。なぜなら関連性の高い可能性を意味として理解する場合、他我に対して文化からかけ離れた可能性を顕在化させてしまうことは多々あるためである。この場合、意味理解は帝国主義的理解に陥ってしまう。
さらに心理システムについて研究を深めるために、脳の神経科学の知見などを取り入れることが今後の課題である。
参考文献
Sperber. D. & Wilson. D. 1995. Relevance: communication and cognition. Blackwell.
Wilson. D. & Sperber. D. 2012. Meaning and Relevance. Cambridge.
クリストフ・コッホ著、土谷尚嗣・小畑史哉訳(2014)『意識をめぐる冒険』岩波書店マッスイミーニ・トノーニ著、花本知子訳(2015)『意識はいつ生まれるのか』亜紀書房
ルーマン著、佐藤勉監訳(1993)『社会システム理論(上)(下)』恒星社厚生閣