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渋沢栄一(2008)『論語と算盤』角川書店

渋沢栄一(2008)『論語と算盤』角川書店

 

一応、昨年東京大学MOOCsにてスタートアップについて学び修了証を頂いた身ですから、副専攻のような形で、経営について学びたいと思っていました。そこで、日本の実業の父とも評される渋沢栄一はなんと言っていたのだろうと思い、本書を読了しました。

 

本書は渋沢が「信仰」していた『論語』を土台にして書かれた経営哲学の本です。ですが、道徳を一心にといているため、自己啓発の本としても有益です。経済にこそ論語を基調とした道徳が必要となるという信念が曲がらないままに感じられます。

 

渋沢は論語を引きながら、「知恵・感情・意志」のバランスがとれていることが必要だと説きます。どれを失っても、理想論ばかりになるか、あるいは金銭の奴隷になるか、そういう個人の悲劇をもたらし、さらには国家システムの衰退につながります。現在の起業家や経営者にもこのバランスが取れている人は少ないと思います。「論語だけでも算盤だけでも不十分」ということなのでしょう。

 

また、渋沢には科学の素養もあったと感じています。下腹部と頭の関係を論じるのはエムラン・メイヤーの『腸と脳』さながらです。また、理論をもってして実行に移すというのはプラグマティズムの匂いも漂っています。

 

さて、渋沢はみんなの益になるのであれば、富を持つこと自体は否定しないといいます。逆に富をもって醜い存在になるのであれば質素な生活をしているほうが良いともいいます。このあたりが、近年の起業家や経営者とは違う点ではないでしょうか。富の拡充ばかりが自己目的になった組織が多いのが残念でなりません。やはり大切なのは、理念と志を高く持つことなのでしょう。

 

最後に、、、幕末の維新を通過し、明治・大正・昭和とかけぬけた渋沢ですが、社会が混乱している時代にはこうした優れた人物が集中的に輩出されるのは有名な話です。幕末の志士がその好例でしょう。一方、社会が安定してくると一部のエリートだけでなく、大衆化が起き、文化が成熟するようです。平安の紫式部清少納言元禄時代がその好例でしょう。翻って現在の日本と世界。COVID-19は紛れもなく激動でしたし、AIや多様性価値観の拡大により、我々も転換期を迎えていると思われます。こうした時代に、よく勉強する若い人たちが世を照らしてくれることに希望をもちます。私のような36歳のおじさんはそれをジャマせず、引き立て役に徹したいと感じています。そのためには、自分も高みを目指して勉強を続けたい次第であります。

 

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